歪められた有効性
有害な「代行」
給付制限の道筋作る

介護保険制度見直しで創設される予定の新・予防給付では、軽度者が利用するホームヘルプサービスが大幅に制限される不安は消えない。ヘルパーによる家事援助は、厚生労働省の言うように自立を阻害し、重度化をひき起こす要因なのか。現場の実態に詳しい立命館大学小川栄二教授に検証してもらう。措置制度時代から続いている家事援助に対する低い評価や、多様な生活実態を無視した政策づくりが進められてきた中で、本来家事援助の持つ有効性が歪められたまま給付削減のために利用されていくことに強い危機感を抱いている。(編集部)


 介護保険改正法案の国会審議が最終局面を迎えようとしている。周知のとおり、国は介護保険制度の見直しの目玉として、軽度者に対する新予防給付(筋力向上、栄養改善、口腔機能向上など)を新たなサービスとして導入するとともに、既存サービスの見直し=給付抑制を打ち出した。
 特に「単に生活機能を低下させるような家事代行型の訪問介護」については原則行わないものとし、例外的に行う場合でも、必要性について厳格に見直した上で、期間や提供方法等を限定する、という立場は国会答弁でも一貫しており、ホームヘルプサービス利用者、訪問介護事業者、ホームヘルパーの間に危機感が強まっている。
 要支援・要介護1の軽度認定者は、生活の不活発さによって徐々に心身機能が低下していくタイプ・・いわゆる「廃用症候群モデル」が多く、その要因として利用者が自ら実施できるにもかかわらず、掃除・調理等の家事を利用者に代わって行う「家事代行型」の訪問介護サービスの利用があるというのが見直しの根本にある理屈だ。
 しかし、これは大きな間違いである。筆者は一研究者としてホームヘルパーの業務、特に家事援助の専門性とは何かを長年追求し続けており、現在も登録ヘルパーを中心とした全国組織「ホームヘルパー全国連絡会」とともに、一○○○の事例研究を進めている。家事援助が「家事代行」であるどころか、家事援助こそ軽度者の自立や生活改善に極めて有効なサービスであると認識している。
 そこで本連載では、家事援助が廃用症候群を引き起こし、「家事不能」を作り出すとする論拠が極めて脆弱であることを指摘していくとともに、事例等を踏まえながら家事援助の有効性について考察していきたい。
ところでこうしたホームヘルプサービスに対する制限はすでに現行制度でも行われており、その代表的なものが二○○○年の途中から導入された「不適切事例」である。「利用者以外の者に係る洗濯、調理・買い物」「花木の水やり」「ペットの世話」などが代表例だが、利用者の状態からみて画一的に制限することは難しく、事業者、ヘルパー、ケアマネジャーの間ではすでに″共通の悩み″となっている。
 また、通院・院内介助の制限、散歩介助などの「禁止」が現実に強化されている(閉じこもり防止が課題のはずなのに)。特に困っているのは待ち時間の長い大病院での付き添いである。介護報酬は送迎時間部分しか認められず、事業者・ヘルパーの″ボランティア″で行うか、利用者の私費契約で行わざるを得ない。
また、措置制度の時は、老人福祉法に基づくホームヘルプ事業の実施要綱が定められていたわけだが、所得や心身の障害要件、同居家族の有無などによる対象制限、派遣回数・時間数などが示されていた。
サービス内容の制限については、実施要綱で明確に示されていたわけではないが、一九六五年、厚生省(当時)は都道府県からの疑義に対して、「田畠の耕作、商品の売買、庭の草取り、家屋の修繕、便所のくみ取り、大掃除等、直接身の回りの世話に属さないとされる業務」と回答しており、実質的な制限となっていた。家族要件については、一九八九年の要綱改定で「その家族が老人の介護を行えないような状況にある場合」から「老人又はその家族が老人の介護サービスを必要とする場合」と、″介護に欠ける″という考え方から、利用契約や家族介護負担の軽減を念頭に入れたと考えられる「必要とする場合」に変更されている。
個別のニーズに対応しない画一的なサービス提供など、公的サービスの限界が政策サイドから批判されたこともあり、要綱上は徐々に緩和されてきた。有料の契約型サービスはそうした流れの中で生まれてきたものでもある。

シルバー新報5月16日号より抜粋

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