「認知症」「うつ」「閉じこもり」

 予防マニュアルについて各担当研究者に尋ねるシリーズの四回目は、地域支援事業で実施する「認知症」「うつ」「閉じこもり」の三種類。一挙に紹介する。
認 知 症 本間昭都老研参事研究員に聞く
「地域づくり」が事業の鍵
 認知症予防が他の介護予防事業と違うのは「地域づくり」であるということ――。介護予防マニュアルの主任研究者の本間昭東京都老人総合研究所参事研究員は、認知症予防としてより本来的なのは、高齢者が元気なうちから自主的、継続的に取り組める予防活動を地域で展開する「一般高齢者施策」だという。市町村が地域の高齢者のニーズ、社会資源などを調べることから始めなければならないという点でコストと手間はかかるが、認知症予防は介護保険制度の命題。各自治体の「やる気」が問われる事業といえそうだ。

 ――認知症は予防できますか。
 「認知症の六割を占めるアルツハイマー型認知症の原因が次第に明らかになってきて、予防の可能性が言われるようになってきました。学術的に根拠のある方法に基づいた取り組みは少ないですが、アルツハイマー型認知症は、いっきに認知症になるわけではなく、ハイリスク群あるいは予備群とも考えられる時期を経てから移行します。この時期の状態は軽度認知機能障害と呼ばれており、介入することで認知症への移行を予防したり進行を遅らせることはできます。
 具体的には、認知機能を重点的に使って、改善や維持をねらう″認知的アプローチ″で介入します。体験したことを覚えて思い出す「エピソード記憶」や対象に対して注意を振り向ける「注意分割機能」「思考力」を刺激することが重要です。
 何らかの認知低下の自覚があるという″潜在的なリスク″を持つ人も対象にする必要があります」
 ――具体的にはどんなことを行うのですか。
 「地域支援事業には特定高齢者施策と一般高齢者施策の二つがあります。
 前者は、軽度認知機能障害の疑いがある人を対象に、「運動機能の向上、栄養改善、口腔機能の向上の事業を提供してそのなかで予防を図る」事業とされています。実際には、医療や保健領域で行われてきた老人保健事業の延長的なものになるでしょう。地域包括支援センターが介護予防健診や訪問などのルートを通じてハイリスク者を把握し、基本チェックリストによるアセスメントと健診結果に基づいて対象者を選定します。その際に、対象者に対して「認知症ではないがそのリスクがある」という診断をする医師が必要なはずですが、国はこのあたりを明確にしていません。どのみち地域で軽度認知機能障害の診断を受けられる体制はまだまだ整っていません。
 認知症は、症状が現れるはるかに前から脳機能の障害というかたちで始まっていると考えると、健康な高齢者も対象とした一般高齢者施策のほうがより本来的な取り組みといえるでしょう。

シルバー新報9月9日号より抜粋


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