植田耕一郎日本大学教授に聞く
 口の体操、ブラッシング
機能訓練が基本
歯科衛生士中心に改善を

新予防給付の対象のサービスの一つが「口腔機能の向上」だ。介護予防マニュアル研究班主任研究者で、長年口腔衛生や摂食機能障害の支援を続けてきた植田耕一郎日本大学歯学部教授は、現行の介護保険のアセスメントでは口腔機能を問う項目が全くなく、一見元気そうな高齢者の口腔内が危機的な状況になっていると警鐘を鳴らす。むせや食べこぼしが介護度悪化のサインになっているというデータも明らかになったことから、歯科衛生士を中心に、マニュアルに沿って介護職員や本人が予防に取り組むことで口腔状態が改善へ向かうよう期待しているという。サービスの基本は正しいブラッシングと口の体操などの機能訓練だ。

 ・・口腔機能の向上を行う意義は?
 「目的は″高齢者が一生美味しく、楽しく、安全な食生活を営むこと″です。
 また、″自己実現の手段″という意味もあります。例えばお孫さんと一緒に遊ぶことが生きがいという人が満足に食事ができなければ一緒に食事を楽しむことも、外食することもできません。楽しい食生活、QOL向上の実現に貢献する。そうした観点からマニュアルを作成しました」
 ・・どんな人が対象ですか。重度者には肺炎や誤嚥予防などの効果があるとは聞きますが、軽度者にも効果があるのですか。
 「対象者の状態像は、ごく普通に食事ができて身体機能も自立している人です。このような一見元気そうな要支援や要介護1の人の中に、よくよく聞いてみると「最近むせやすい」「味がわからない」「口が渇いてしょうがない」と訴える人が多いのです。軽度者の中でむせや食べこぼし、のどの違和感を訴える二割の人が、近い将来重度化するというエビデンスも得られました。そこで、兆候がある人を見過ごさないようにケアをして、重度化を防ごうというのが介護予防のねらいです。
 いま高齢者の口の中を健診させてもらうと、合わない入れ歯をしていたり、歯が根っこしかなかったりなど、″体は元気でも口の中は寝たきり″という人が本当に多いのです。ブラッシングは自分でできても、清潔が保たれている人は多くありません。こうした方が、ひとたび脳卒中を起こしたり、ADLが低下すると、加速度的に悪化してしまうのです。
 口腔ケアに関しては、これまで介護保険のアセスメントの中に全く項目がなく、半ば放置されてきた状況です。軽度のうちに口腔機能をチェックする仕組みが組み込まれることで高齢者自身の口への関心も高くなると期待しています」
 ・・新予防給付では、サービス提供従事者として歯科衛生士、言語聴覚士、看護職員などの専門職を挙げていますが、必置ですか。
 「必置にはならないと思いますが、私はエキスパートとしての歯科衛生士を置く必要があると思います。もちろん、作業療法士や理学療法士、介護職員などでも機能訓練や助言指導を行うことはできるのですが、歯科衛生士と介護職が行う指導ではやはり内容が違ってくるからです。
 新予防給付では、歯科衛生士が月一~二回行う「専門的サービス」、介護職員が口腔清掃や健口体操などを行う「基本的サービス」、本人が自宅で行う「セルフケアプログラム」の三つを盛り込んだ計画書を作成します。計画は個別に作成しますが、グループで実施しても構わないでしょう。
 地域包括支援センターで行う一次アセスメントでは、「むせや食べこぼしが気になるか」「口臭や口の渇きが気になるか」「現在どれぐらいの物が食べられるか」の三項目の問診項目と、嚥下機能や口腔衛生状態を調べる検査項目の例を示しました。事業者が実施する二次アセスメント項目は、マニュアルにもすでに現場で採用されているものを紹介しています。
 地域支援事業の特定高齢者施策は、市町村の保健センターや公民館で「専門的サービス」と「セルフケアプログラム」を組み合わせて提供します。それぞれ対象者は約六万人と想定しています」

シルバー新報9月2日号より抜粋


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